特集

若者人材の採用力を高めて発展する地域企業を目指して
~山形県内企業の採用に関する実態調査 結果概要と考察~

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Ⅲ.地域企業が大学新卒者の採用力を高めていくために

  • 大学新卒者の採用状況を概観すると、採用計画に対する採用できた人数の充足率はまだ5割程度であり(図表6)、今後、採用数の伸びしろが期待できると思われる。
  • 大学新卒者の採用実績のある事業所では、その多くが採用の効果等を認識し、企業活動での活用のメリットを見出している(図表12・13)。大学新卒者の採用(募集)を行っている事業所の今後の意向も、「採用継続」と「増やしたい」を合わせ9割以上であり(図表11)、県内企業による大学新卒者の人材確保への積極的な姿勢、考えがうかがわれる。
  • このような特徴がみられるなかで、今後、県内企業による採用拡大や新たな採用の取り組みに向けて、調査から読み取れる主な課題や方策の方向性を示す。

Ⅲ-1.企業情報発信の学生のニーズに応じたステップアップ・発展化

採用実績のある事業所では、情報提供方法・手段として、民間の就職情報サイトや大学主催の企業説明会等を有効に活用するとともに、若手社員と話をする機会の提供も多い傾向がみられた。学生との双方向の密接なコミュニケーションにより、学生のニーズに応える情報を提供し、当該企業に就職することの納得感や安心感を与えることが採用実現の重要な鍵になっていると思われる。

今後の採用活動では、特に、コロナ禍を契機としたIT・Webの有効活用が当面する課題と捉えられよう。全国の主要企業を対象とした2023年春入社の大学新卒採用に関するアンケート調査[3]でも、約9割がコロナ収束後もオンラインと対面を組み合わせた採用活動を継続するとしており、オンライン活用は主流になってきている。本調査では、「Webでの自社説明会」をみると、「採用実績あり」の事業所でも約4割の水準であり(図表7)、全国的な新卒獲得を巡る競争への対応のため、一層の普及が望まれる。

さらに、「自社紹介の動画等映像メディア」、「SNS」は、まだ2割程度にとどまる(図表7)。動画は、実際にその場へ足を運ばなくとも、学生がWeb上などで仕事の現場を社員からの直接の話も含めリアルに実感できる工夫となる。また、SNSは、学生に馴染みやすいコミュニケーション手段として、容易なアクセスが期待される。これら情報発信ツールの活用のため、大学等とも連携し、研修機会やコスト面等での立ち上げ支援、ノウハウ提供など、企業の実情、ニーズに応じたきめ細かな後押しも求められよう。

[3] 読売新聞社と日本テレビ放送網による主要企業118社を対象とした調査 (読売新聞 2022年4月19日記事公表)

Ⅲ-2.学生と企業の相互理解によるマッチング促進 ~理系学生の県内就業促進に向けて~

採用にあたり重視するポイントでは、「コミュニケーション能力」、「素直さなどの人柄」など仕事遂行に求められる基本的な素養が、令和2年度調査で学生が仕事・企業選びの軸に考えている「専門性・スキル」、「大学の専攻内容」を大きく上回っている(図表10)。
令和2年度調査によれば、特に、理系学生は大学での専攻や専門を生かした研究開発を志向する傾向にある。こうしたなか、県内大学でみると理系学生の県内就職率は大学全体(約3割)の水準をかなり下回り[4]、今後、理系学生の県内就業促進に力を入れて取り組むことが求められよう。この場合、企業と学生との間を結ぶためには、基本となる仕事観等の相互の理解、共通の認識を持つことが、その入り口になるのではないかと思われる。

県内の中小製造業系企業を例にとれば、付加価値向上を目指し、発注元の新たなニーズに応える新しい製造ラインの設計・開発など多様な開発の取り組みもみられる。それらの意義とやりがい、また、学生が志向する大学での専門的な学びと仕事との関わりや、理系学生に期待するミッションなどを伝え、学生の理解と共感を得ていくことが、重要になるのではないかと考えられる。大学のキャリア教育や理工系の教育現場での学生と企業との交流機会なども活用し、こうした視点からの取り組みも進められることが望まれる。

[4] 例えば、山形大学工学部をみると、2021年3月卒業生の県内就職率は14%
(「求人のための山形大学案内」→ 工学部就職者 32名(山形県)/227名(全体))

Ⅲ-3.人材の確保・活躍の条件となる給与・福利厚生面の改善促進

給与や福利厚生といった勤務条件は、人材が能力を発揮し業績を向上させる環境・条件となり、また、そのモチベーションの要素となる。令和2年度調査でも、学生は、企業選びに際し、仕事の内容・質を基本にしつつ、給与や福利厚生等を総合的に考慮している。本調査でも、採用実績のある事業所は、ない事業所に比べ、給与水準、福利厚生も充実しており(図表17)、人材確保の条件整備として継続して取り組むことが重要になろう。

このなかで、賃上げについてみれば、社内の賃金制度とともに、その原資となる生産性・収益力向上、その具体的な取り組みとなる設備投資・IT投資や人材の専門知識・技能など能力向上への支援が必要との回答割合が高かった。これを踏まえ、今後は、企業のイノベーション、設備投資・IT投資、新事業開発、人材の能力開発・育成など生産性や収益力向上の取り組みと継続的な賃上げを一体的に捉えていく視点が重要になると考えられる。政府による令和4年度の賃上げ税制強化等でも、こうした考え方が織り込まれており、自治体レベルでもこれらの視点による企業振興策を準備していくことが望まれる。

Ⅲ-4.大学新卒者の採用力向上のための支援・コーディネート

まず、さまざまなやり方を組み合わせた有効な採用活動によって、小規模企業も含め継続的な採用実績につなげているモデルケースを掘り起こし、企業が取り組みの参考としえるよう、これらの情報を整理、”見える化”し、横展開していくことが望まれる。

小規模企業など十分な採用活動に制約があるケースでは、採用活動の支援を行う企業団体とも連携し、実践ノウハウの支援、協力を広げていくことも望まれる。業界の企業同士による求人の情報発信、採用マッチング等の連携協力した取り組みなど、効果的な採用活動の支援・コーディネートの方策、事例を探り、その展開可能性を検討することも考えられよう。

また、採用実績がない事業所では、採用活動の情報・ノウハウはもとより、大卒者の活用や採用後の育成体制、賃金など大卒者を採用し、受け入れる条件が不十分であり、採用実績のある事業所と格差があるものと推察される。このため、採用実績がない事業所では、実情に応じて、大卒者を採用し、受け入れる条件を整えながら、初歩からのステップを踏んだ実践と支援を要するものと思われる。
例えば、無理なく採用活動に取り組むため何から始めたら良いかや、学生に関する必要な情報など、具体的な活動の前段階での初歩的な事項を含め、何でも気軽に相談できるような、産学官連携によるワンストップでの相談機能の提供などが望まれる。

この場合、採用実現への意欲の高い事業所などについては、大学、企業団体、行政など関係者が一体となった、採用活動や採用後の育成体制など受け入れの条件整備への伴走型支援により、採用実現のモデルケースを創出・普及していくことも考えられよう。

【参考文献・資料】

(本資料の内容は2022年10月執筆時点のものです。)

この記事を書いた人

株式会社フィデア情報総研

地域政策コンサルティング部 理事佐々木 昭喜

株式会社フィデア情報総研 山形支社
TEL:023-626-9017

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