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若者から「仕事・就業」の場に選ばれる地域を目指して

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今後の若者の定着・回帰にとって、大学卒業者の地域での就業促進が重要な課題である。山形県においても、新規学卒者の県内就職率は、県内大学卒業者(約3割)が県内高校卒業者(約8割)を大きく下回る。政府の第2期総合戦略でも、今後、地方では、大卒者の志向に応じ、やりがいを感じられる魅力的な仕事の十分な提供が重要としている。本稿では、これらを踏まえ、山形県内大学生を対象とした「仕事・就業」への意識等調査を紹介するとともに、大学生が地域で「仕事・就業」を選択していくための課題、方策について考察する。

Ⅰ.はじめに

Ⅰ-1.これからの若者の定着・回帰は大学卒業者の動向が鍵に

政府による地方創生は、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正することを主な目的に掲げている。東京圏への人口の集中は、進学・就職をきっかけに、地方から東京圏への若年層を中心とした大量の人口移動によって生じたものとされる。

山形県でも、高校を卒業する18・19歳と、大学等を卒業し就職する20歳代前半の若者の転出超過数がその全体の7~8割程度を占めて推移しており、山形県人口の社会減少が続く傾向は、これら若者の県外流出が大きな要因となっている(図表1、図表2)。

図表1 若年層の転出超過

(資料)山形県「山形県の人口と世帯数」(平成26年~令和元年)

図表2 年齢別県外転入・転出者数(平成30年10月~令和元年9月)

(資料)山形県「山形県の人口と世帯数」(令和元年)

こうしたなか、若者の定着・回帰の重要な条件となる「仕事・就業」に着目してみると、県内高校卒業者については、県内就職率が、近年約8割と高い水準で推移し、全体として、地元志向の動きにあるといえよう(図表3)。一方で、大卒者の県内就職率は、県内大学の卒業者でみても、約3割程度であり、特に、理工系の学部では、1割強と極めて低い水準にある(図表4)。

図表3 高等学校(全日制課程・定時制課程)卒業者の卒業後の県内就職率の推移

(資料)山形県みらい企画創造部統計企画課「令和2年度学校基本調査 卒業後の状況調査 山形県結果」(令和2年12月)

図表4 県内4年制大学卒業生の就職状況(令和元年度)

(資料)山形県学事文書課調べ、山形大学の値は山形大学HPより

今後、山形県における若者の定着・回帰にとって、大学進学率が高まり高学歴化が進むなかで、大学卒業者の動向が鍵になるものと考えられる。

Ⅰ-2.政府の総合戦略が重視する大学卒業者の「仕事・就業」への志向

政府においては、地方創生の取り組みを進めるため、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(以下「総合戦略」という。)を策定し、第1期(2015年度から2019年度まで)総合戦略では、2020年までに東京圏と地方の人口の転出入を均衡させることを基本目標とした。しかし、東京圏の転入超過数※1は、第1期総合戦略の期間も、2015年の11.9万人から2019年には14.6万人と増加の状況がみられた。このため、政府は第2期(2020年度から2024年度まで)総合戦略を策定し、その取り組みを継続している。なお、2020年の東京圏の転入超過数は9.8万人で2019年からかなり減少しており、今後のコロナ禍での人の動きには注視を要する。

これらの動向を受けて、第2期総合戦略では、第1期の検証を行い、特に、近年、大学進学率が高まるなかで、専門的・技術的職業、情報サービス業、専門サービス業など大卒者が就職する割合の高い仕事が、東京圏に多いことを、東京圏への集中の要因として捉えている。そして、地方では、単に量的な雇用機会の創出にとどまらず、大卒者の志向にも応じ、やりがいを感じることができ、賃金などの面で魅力的な仕事を十分に提供していくことが重要としている。

※1

東京圏の転入超過数は、総務省「住民基本台帳人口移動報告」による。

Ⅰ-3.基本情報となる山形県内大学生の「仕事・就業」の意識・考え方

こうした背景等を踏まえ、山形県では、若者の県内定着・回帰に向け、昨年度、当社フィデア情報総研に委託して、山形県内の大学生を対象に、「仕事・就業」への意識・考え方に焦点を当てた調査を行った。

ここでは、山形大学及び東北公益文科大学の協力・助言を得て、「仕事内容や企業を選択するうえで何をポイントに考えたか」、「就職活動において必要とした情報は何か」、「実際に志望した職種や今後採用の拡大が必要な職種・業種は何か」、さらに「新型コロナウイルスの影響に伴う意識変化」などについて、アンケート調査を行った。

アンケート調査結果を深掘りするため、インタビュー調査も行い、学生の生の声を聴取した。

本稿では、この調査の結果(概要)を紹介するとともに、調査結果から読み取れた課題、今後の方策の方向性について、筆者個人の見解として示す。

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