- この記事の企画
- 東北ならではのものづくり、まちづくりとはどんなものか。クリエイティブが果たす役割とは何か。事例を交えながら、それぞれの視点から語ったイベント当日の対談内容を抄録しています。
なぜ山形を拠点にするのか
—— ありがとうございます。それでは、次のトークテーマに移ろうと思います。小テーマが「なぜ山形を拠点にするのか」。大田の方から東北という括りで、いろんな事例を紹介しつつ、東北とクリエイティブの可能性についてお話しさせていただいたんですが、今回はその中でも山形に焦点を当てて、事例を交えながら中山先生に色々伺っていきたいなと思っております。
中山 最近のこれは鶴岡の松ヶ岡っていうところの事例ですね。庄内藩は、幕末、明治になっていく時に刀を鍬に持ち替えて、プライドも歴史も全てを捨てて、土を耕し、開墾し始めたんです。武士たちが開墾した跡地に当時の建物が残っていて、ここは日本遺産なんですよ。日本遺産のアドバイザーになったので、この松ヶ岡を担当しまして。これは、町の人たちと一緒に考えて描いた、松ヶ岡の「こうなったらいいな」というクラフトパーク構想です。昔は遠足で必ず行く場所だったり、桜が綺麗だったり、その時代劇の時に使われたりしてたんですけど、どんどん廃れてきてて。なので、今一度、子供のうちに見ておきましょう、と遠足で行く場所して復活させるためにいろいろ整備しましょう、とイメージ図を松ヶ岡の地域の人と描いていったんです。それで、開墾場から鶴岡シルクというシルク産業が生まれて。ここ面白いんですよね、刀から鍬に持ち替えて、まず最初に植えたのが桑の実で、そこからお蚕さんを育て、シルクを作り。そして、シルクをたくさん輸出できるようになって、一回栄えるんですけど、それがまた衰退すると、今度は柿を植えて、庄内柿って有名じゃないですか。名産の庄内柿を作り始めて、今柿を作ってたところにブドウを植え始めて、ワイナリーができました。そのワイナリーのデザインとかもさせてもらったんですけど、この辺り一体にすごく歴史とかが全部詰まっていて、これはもう見た目を作るというよりも仕組みを作るということになって、(先ほどの)お寺と一緒です。最終的に見た目が必要なら、できるだけこの仕事は鶴岡に在住しているデザイナーさんにやってもらいながらメイドイン鶴岡にしていこうとしているものです。今も地域の方々がいろんなイベントをやったりしていて、面白くなってます。ここのシルクのクオリティって非常に高くて。皆さんがよく知ってるサラサラのシルクとは違う、ちょっとボコボコした「きびそ」っていうシルクの大本になっているパーツを使ってます。須藤玲子さんという超一流のテキスタイルデザイナーが入って作っていたり、海外のブランドもここのシルクを使って今スカーフとかを作ったりしています。
太田 シルクによって違うんですね。
中山 はい、色々違うんですよね。テキスタイルデザイナーが入ってこないといけなくて、ここはデザインとうまく融合してるとこですね。シルクに関するいろんなもの、歴史とかがわかるようになっていて、繭に触れたり、お蚕も見れるようになってます。巨大な木造建築が結構残っていて、日本遺産なので壊せない直せない、勝手に改造できない。そこで、今あるこの木造建築を使ってやれることということで音楽祭をやったりして。たくさんの方がいらっしゃいます、酒田、鶴岡って文化が好きな人が多いエリアなので。こういうのを僕が手掛けているというよりは、こういうことができる土台を日本遺産アドバイザーとして整えたっていうことですかね。
太田 木造建築って音がいいですよね、建物全体が響いて。
中山 はい、周りに隣接してる民家もそれほどないので、アコースティックとか、いい音がちゃんと響いて、周りを気にしすぎないで音が出せるっていいですね。
松ヶ岡がものづくりから始まったという原点に戻して、ここでいろんな陶芸が学べたり、ものづくりが学べたり、夏休みに子供たちが工作しに来てくれるようなところになればいいね、という思いを持って今やってるところです。
中山 これもやっぱり山形ならではの一つで。さっきの山形食品さんと作ったジュースから、農協さんや農家さん、農業団体とのお付き合いが多くなってきて、そのうちの一つですね。鶴岡に農業経営者育成学校というものを作ったんですよ。これが何かというと、たくさん田んぼはあるんですけど、農業従事者がどんどん減っていってる、耕作放棄地が増えてきてる。鶴岡市としては移住の人も増えてほしいし、農業経営を本気でやってくれる人を育成しようじゃないかって。昔、山形県が作った温泉保養施設があるんですが、温泉保養施設なのに温泉が出なくなっちゃって。巨大なホテルのような施設が一個、ぽんと余っていたので、そこを鶴岡市が使えるようにしてもらって、この「Q1」と一緒ですね。このネーミングとかブランディングのデザインをやって、僕の教え子の、東京にいるデザイナーと一緒にその後ディレクションしていきました。このロゴは(地図記号の)「畑」を(漢字の)「人」にしていて、この学校が育てるのは畑ではなく人ですよ、とシンプルに。ここ(英語表記の頭文字 SEADSの「D」)に「デザイン(Design)」って入れたんですよ。「デザイン」を入れたのは、単に今までのように農業経営の方法を教えるんじゃなくて、さらにどうやったらイノベーションが起こっていくのかを学んでいけるように。「いろいろ作らないといけない」ではなくて、何が作りたいかに合わせて、ちゃんとシステムを作っていける農家さんもいらっしゃる。例えば、トマト一本で何億も稼いでいたり、長野の方にはレタスで15億儲けている農家さんもいる。そういうちょっと変わった先生を呼んでやっています。
中山 これは鶴岡駅前の事例ですね。ここは朝と夕方だけは、高校生が自転車でたくさん来るんだけど、昼間は誰もいない、これをどうするか、というもので。立派な建物は建っているんだけど、それが老朽化してきていて。最初、鶴岡市から依頼があった時に、僕はすごく突飛なアイディアしか出しませんよって話をしたんです。「人が住まなくなったところは、更地にして木を植えたらいいじゃないですか。そもそも木があったところを切り倒して家を建てた、それなら人が住まなくなったなら戻していけばいい」と。だから駅から降りたらいきなり緑、でもいいんですよ。人がいない分、木が植えられれば、それは絶対観光資源になるんで。そういう駅前にいきなり公園作っちゃうぐらいのプランでもいいならやりますって、かなり強気でいったんですね。本当に駅前をちゃんとするなら、鶴岡駅前を公園にするぐらいの勢いでやりましょうというようなことを言ったら、その施設を使って、やっぱり朝と夕方、たくさんいらっしゃる、特に高校生のための放課後の場をどうするって発想になりました。庄内藩には徂徠学(そらいがく)っていう学問があって、今も町の人たちがとても大事にしているんですけど、その藩校で教えていたことの基本っていうのが、今の社会でもすごく通じるものがたくさんあってですね。それを最新のテクノロジーとか入れながら、偏差値は関係なく、制服が違う子が混ざって、高校生たちがみんなで交流できる放課後の学校をやろうという構想を作りました。
太田 いいですね、これ、(例えば)「おじいちゃんたちにスマホを教える高校生」。
中山 このプロジェクトチームのリーダーが僕だったんですけど、地域プロジェクトデザイナーの古田秘馬さん、六本木農園とか東京駅の丸の内朝大学とかやってる方ですね、それと、僕の友人のGoogleの教育系のデザインをやってる人がいて、その3人でやったんで、結構IT系が入っています。実装するかどうかはまだわからないんですが、とりあえず町から依頼されて私たちプロならこう考えますと提案する、というお仕事でした。
中山 あとは平田牧場さんですね。酒田にある豚肉といえば、もう日本一の豚肉ブランドになってきましたけど、こちらのお仕事をするようになりまして、今ほとんどのパッケージデザインとかを僕のチームでやっています。ここはやっぱりすごいんですよね、エコとかサステナブルとか、SDGsとか言われる前から、「だって健康な豚肉が一番うまいだろう」っていう発想なんですよ。めちゃくちゃ元気に走り回って、病気しない豚の肉の方がうまい、そういう風に健康に育つ環境を作ろうってやってきたから、時代が追いついてきちゃって。ただし、大量には作れないですよ、と。だってたくさん一気に豚を飼うと、みんな弱っちゃうからってやってたとこなんですよ。本当に正直に作ってる企業さんで、僕もものすごく正直なデザインにしようと。
太田 ストレートですよね。
中山 おしゃれにする必要もなく、正しく作ればいいというか。
太田 「SDGsですよ、サステナブルですよ」って、誰かが言葉にして、始まったんですよね。
中山 そうですよね、そういう世界のバズを国連が言葉にまとめた。世界のスタンダードとして、地球環境がより長く続くよう、人間と環境の関係をいくつかに分類した、僕はあれは素敵だと思うんですよ。
太田 考え方として、広がってきてる感じはしますね。一方で、もともとやってた人もいっぱいいますし。
中山 そうです、日本には特に多いと思います、そういう考え。例えば味噌造りとか、酒造りとか、すごく多いですよね。
—— 先ほど中山先生がおっしゃっていた「長く残っているもの」について、無理のない成功や仕事をされてるからなのかな、と今のお話を聞いていて感じました。そういったものが東北には多いから、クリエイティブにも影響があるんでしょうか。
太田 過去を掘り下げてもう一回考えてみようって仕事が多いですね。新しく、ぱって思いつくとかではなくて、元々はどうだったんだったか、という。
中山 おっしゃってくださったように、僕のクライアントさんは本当に誠実にものを作ってる人が多いので、あんまりデザインしなくてもすぐ行けるかな、まっすぐ伝えればいいだけというようなところはありますね。だから先ほどの平田牧場さんの商品もカバーをしなくていいんですよ。大手メーカーのハムだと、ハムが入っているのにハムの写真を重ねちゃうんですよ。いやいや、ちゃんと肉は肉でそのものを見せましょうよ、と。
太田 (パッケージには)文字だけでいい、と。
中山 文字だけで構わないし、お金が許せばもうプリントしちゃいたいです、透明のビニールパックに直接。コスト的にはステッカーになっちゃうんですけどね。
太田 東北ってやっぱり、まっすぐやってる方がまだまだいっぱい残ってるんですね。いえ、残ってるというか、本来そうあるべきだと思います。東京だと、ややこしく、嘘に嘘を重ねて、何とか売れる仕組み、見せ方を考えるみたいになるときがありますけど、そのまま見せれば強いっていうのはありますよね。
中山 うん、ありますよね。すぐ横にライバルの商品が並ぶ、コンビニの陳列とかスーパーの売り方ってめちゃくちゃ残酷じゃないですか。例えば、明治が必死で作ったチョコの横に、ロッテの新製品が来るんですよ。だからそこなんだと思います、チョコ自体はどうでもよくて、とにかくパッケージングとネーミングになってくる、チョコも一生懸命作ってるはずなのに。でも、東北の場合、この平田牧場さんの近くに豚肉屋さんはいないんです。でも、ちゃんと加工屋さんはいたりする。距離感がいいんですよ。あとは酒蔵も並んではいない、同じ町に仲の悪い酒蔵が2つあるけど、山の酒蔵と海側の酒蔵と言われて、両方とも愛されてる。いいライバル関係と距離感だなって。
太田 先ほどのコンビニの陳列にも通じるかもしれないんですが、最近植物の造園屋さんと話をする機会があって。赤道直下の南国の方って、植物は「もっと俺の方が目立つぜ」って、赤があったり黄色があったりとか、もうどんどんインフレのようになっていて、でも北の方に行くに従ってシンプルな植物になってくるっていうのが、デザインとはちょっと違いますが少し近いかな、と。「より目立たなきゃいけない」、一方で「そのままを伝えるのがいい」という。
中山 そうですね、ミニマルになっているし、カラーリングとかもストイックになってきますよ。最初の山形食品さんの缶ジュースだって、最初黒い缶は通んないと思ったんですよ、僕はかっこいいと思ったんですけど。白いバージョンとか、別バージョン、B案、C案も用意していたんです。それで、黒いデザインのA案を先にプレゼンしたら、黒いのかっこいいねって言ってもらえて、ああよかったと思って。あれは黒でなかったらあんなにヒットしてないです。
太田 いや、黒、いいですよ。実際の洋梨の写真を使われているんですよね。
中山 洋梨の質感は、写真を撮影して入れて、イラストは当時の卒業生に、代わりにシルエットを書いてもらって、作っていただいてます。なので、この缶ジュースのデザインは確かに色はついてるけど、それは果実そのもの、自然の色がついて派手になってるだけなので、もしかすると、これが東北における派手の最上級の形なのかもしれません。
—— ありがとうございました。太田、中山先生のお二人に東北の良さ、東北におけるクリエイティブのあり方についてお話しいただきました。
(Q1 REAL CREARIVE TALK「東北と学生と未来と今を。」第一部より抄録)
中山 ダイスケ(なかやま だいすけ)
アーティスト、アートディレクター。アート分野ではコミュニケーションを主題に多様なインスタレーション作品を発表。1997年よりロックフェラー財団、文化庁などの奨学生として6年間、NYを拠点に活動。1998年第一回岡本太郎記念現代芸術大賞準大賞など受賞多数。1998年台北、2000 年光州、リヨン(フランス)ビエンナーレの日本代表。デザイン分野では、舞台美術、ファッションショー、店舗や空間、商品や地域のプロジェクトデザイン、コンセプト提案などを手がける。2007より本学グラフィックデザイン学科教授、デザイン工学部長を経て、2018年より東北芸術工科大学学長。
太田 伸志(おおた しんじ)
株式会社スティーブアスタリスク代表取締役社長、クリエイティブディレクター。東北学院大学経済学部卒業後、マトリックスの主人公に憧れてシステムエンジニアとして就職。2018年、ストーリーテリングを得意とするクリエイティブカンパニー、Steve* inc.を設立。クリエイティブディレクターとして、サントリー、楽天、サッポロビールなど、大手企業のブランディング企画を多数手がける。武蔵野美術大学、専修大学、東北学院大学、東北芸術工科大学の講師も歴任するなど、大学や研究機関との連携にも力を入れている。東北出身のせいか日本酒が好きで.酒師の資格も取得。TOKYO MX『アニメ大福くん』脚本執筆/Pen Online『日本酒男子のルール』連載/七十七銀行FLAG『大学で教えてくれないことは東北の居酒屋が答えをくれる』連載/文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品、グッドデザイン賞、ACC賞、Yahoo! JAPAN Internet Creative Awardをはじめ、受賞経験多数。
株式会社スティーブアスタリスク https://steveinc.jp/
ブランディングや商品開発を、その瞬間ただけではなく「未来にどのような影響を与えるか」を考えてお客様と共に併走することを目指すクリエイティブカンパニー。CI/VI開発からWebサイトや名刺・グッズなどのプロジェクト立ち上げに必要な制作物もワークショップを含めたコンサルティングから関与。時代の潮流を研究し続け、長期的な企業成長を共に考えるクリエイティブパートナーとして、多くのお客様から信頼を得ています。
音楽レーベル「Steve* Music」空間デザインレーベル「Steve* House」も展開しながら、2021年からはPRのあたらしい形を探求するPRレーベル「Steve* P.R.」も創設。
>> 採用情報(株式会社スティーブアスタリスク)
Steve* inc.では、フロントエンドエンジニアを募集しています。弊社が手がけるクライアントワークおよび自社事業におけるプロジェクトのフロントエンドエンジニアとして、クライアントやクリエイティブチームと一緒にアイデア立案から業務を担当していただきます。 WEBサイトなどの構築が中心となりますが、フロントエンドのスキルに関わらず、ご自身が持つユニークなスキルや経験を発揮していただけるような活躍の場を弊社からご提案させていただくことも可能です。ぜひ、あなたの「つくりたい」や「好き」についてお聞かせください。
この記事を書いた人
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