- この記事の企画
- 東北ならではのものづくり、まちづくりとはどんなものか。クリエイティブが果たす役割とは何か。事例を交えながら、それぞれの視点から語ったイベント当日の対談内容を抄録しています。
東北とクリエイティブの今とその可能性
—— それではトークテーマに入っていこうと思います。「地域のためにクリエイティブができること」ということで、東京でお仕事をされつつ芸工大で教鞭をとっているお二人に、東京と東北を両方知った上で、なぜ東北に可能性があるのか、伺っていきたいと思っております。まず、小テーマ「東北とクリエイティブの今とその可能性」について、太田よりお話しいたします。
太田 事例を見ていただきながら可能性があるな、と僕が思うことを話せたらと思います。まず、最近やった事例で「COME SACK」というブランドのクリエイティブディレクションをさせていただいてます。何のブランドかというと、「COME」は「コメ」と読めると思うんですけど、米袋の素材なんですよ。紙の袋は最近海外で作られたものとかを使う業者さんが増えてきてるんですけど、これは特殊な素材を一本一本糸で編む結構丈夫な素材なんですね。だけど、その袋を編み込む機械が日本で最後の1台になっちゃったんですね。この会社は岩手県にあるんですけど、もうその機械動かすのやめようかっていう話が会社の中で出たらしくて。実はこれって非常時の時は土嚢になったり、いろんな使い方ができる素材なので、唯一国内で動かせる機械をなくすのはどうなのかっていう話も出たんですよ。輸入製の袋を使うにしても、海外で値段もだんだん上がっていたり、何かあれば輸入すらできなくなってくるって時に日本に唯一ある機械を残しとくのは大事なんじゃないかってことで。何ができるかという中で、ファッションディレクターの方がバッグを作れないか、と。その方と一緒に話をしながらどういうものを作ってどういう風に世の中に伝えていけばいいのかっていうのをやってて、このビジュアルの撮影などもやっています。
中山 このバッグの素材は、IKEAのカバンのような?
太田 まさにそうです、素材はビニール的な合成繊維で、すごいんですよ、作り方が。この部屋いっぱいになってしまうような機械で、一本一本丁寧に編みこんで。どんなサイズにもどういう折り方もできるので。もちろんファッション分野に進出するなんてことはしたことがなかった会社なんですけど、すごい丁寧に職人さんがいろいろやってくれて、こうすればできるんじゃないか、もうちょっとこういうやり方をした方がいいんじゃないかって一生懸命考えながら。
中山 どこで売られるんですか?
太田 一旦は先月2月にクラウドファンディングを実施してます。すごい話題性もあって、目標金額が今300%くらいになってて。ネットでまずは買えるようにして、あとはいろんなお店とかセレクトショップとかコラボしていこうと思っています。
太田 これは、盛岡の去年の秋にできたホテルのブランディングをさせていただいたものですね。「HOTEL MAZARIUM」というホテル名なんですけど、「MAZARIUM(マザリウム)」っていうのは、いろんな価値観が混ざり合うっていう意味があって、「ヘラルボニー」さんと一緒にやった仕事なんです。「ヘラルボニー」は、盛岡にある会社で障がい者の方が書いたアートとかを使った商品作りやブランドづくりの会社さんなんですけど、ホテルの部屋の装飾品をそのアートで満たして、というようなホテルなんですね。だからこのホテルに来た方はホテルに泊まることで障がい者の方のアートに触れたり価値観に触れたり、あとサウナとかの温浴施設もあるので、そこに入ったり、地元出身のジャズピアニストの展示物があったり。いろんなことを知ったりいろんな出会いがあって、このホテルに泊まる前とホテルから出た後で変化がある、自分の中で混ざり合ういろんな価値観が生まれたらいいなっていうお話をまず聞いたので、ロゴの作り方として、ホテルの外観のパースもアウトラインなんですけど、「(ロゴの中の)I」は「人」をイメージしてまして、ホテルの中の動線なんですよ。最後、ホテルを出ていくときにそういう価値観になればいいなという願いを込めたロゴになってます。
太田 もう一つ、「クラフトサケブリュワリー協会」の事例を紹介したいと思います。実は僕日本酒が好きで、唎酒師(ききさけし)の資格を持ってまして。酒蔵さんって日本に何千蔵とかもちろんあるんですけど、新しい蔵を作りたいっていう免許の発行はもうほぼできないんですね。これ以上は作れないとなっていて、いろんな法律がありまして。ただ、日本酒って米と水と米麹から作られるんですけど、そこに例えばテキーラの原料のアガベとかを入れて一緒に発酵させると、それはもう日本酒ではないので範囲外なんですね。そういうものを「クラフトサケ」と呼んで、自由にもっと酒蔵をやりたいっていう若者が新規参入できるような団体を作っていくべきなんじゃないかってことをですね、最初福島にある「haccoba」さんという蔵の佐藤さんと。
中山 クラフトビールの作り方の「クラフトサケ」ですか?
太田 近いです、そうですそうです。
中山 これ古い酒蔵にめちゃくちゃ怒られません?
太田 そこの価値観の融合がなかなか難しいところだったんですけど、日本酒業界全体でいうと減っていってるんですよ、微減というかずっと減り続けていて。
中山 だから外に売ってるんですよね、輸出して。
太田 そうです。輸出して海外に向けたりするんですけど、やっぱりそもそも日本酒を選択肢に、ハイボールでもビールでもなく日本酒を飲もうっていう文化というか、若い世代の人にもすごくおいしい日本酒がいっぱいあることを知ってほしい。そもそも日本酒っていう選択肢を入れてもらうっていう活動として必要なんじゃないかという話を出させていただいたりしてます。
中山 だいぶ前、7、8年前くらいかな、学生さんが考える日本酒を作ってくださいという依頼があって。公民館を借りて、そこでみんなでお酒を飲んでお酒について語り合うっていうのをやったんです。そのとき、学生に日本酒に関するアンケートを取ったら、すごいですよ。日本酒のイメージ、1位「暴力」、2位「酔っぱらう」、3位「暴れる」みたいな。8年くらい前だから今みたいに日本酒が素敵に語られてる、ワイングラスで飲む日本酒コンテストなんてテレビで全然出なくて、イメージが「暴れる、一升瓶、暴力」みたいな感じですごく面白かったです。そのアンケートの中に「いろんな温度で飲める、あったかくても冷やしても飲める」というようなのがあって、そこから膨らましていって、温度計のバーがついてる日本酒の瓶を作ったんですけど、あれは企画構想の学生の発想で、グラフィックの学生が作ってですね、一緒にやりました。
太田 そういったら最初に話し合う時間とかすごい大事ですよね、今どう思われているのかとか。
中山 でも、そのプロジェクトやめようかと思ったくらい、アンケートはひどかったです。それくらい学生にとっては多分お酒が遠いし、お酒のその先にある日本酒はもっと遠いんですよ。学生が日本酒を飲んでるシーンはあまり見てないですね。
太田 そうですね。クラフトビールって結構自由で、材料とかも柑橘系と一緒に発酵させたりとか。じゃあこのクラフトサケも同様かというと、ただ適当に作ってるというわけではなくて。ここの方たち、日本酒の作り方のプロで、実際伝統的な酒蔵さんで学んできたりとか、本当に丁寧な日本酒の作り方を知っているからこそ、もう一味こういうものを加えたほうがいいんじゃないかっていうのをやられてる方なので、ほんとにどれもおいしいんです。「makuake」というクラウドファンディングの会社の本社が渋谷にありまして、そこの代表がすごく興味を持ってくださって、本社で記者会見をやったんですけど、結構反応がすごくて。ワールドビジネスサテライトとかNHKの取材とかが来て、とんでもない話題になっちゃってます。
日本酒の歴史を学んでいくと、もともと田植えの時期に桜の木の下で豊作を願ってみんなで飲むということがお花見の起源でもあり、日本酒の一番有名な飲まれ方なんですけど。ロゴマークも、杯にちょっと桜の木のピンクが映っているイメージと、「クラフトサケ」のひらがなの「く」にしてまして。日本酒の文化って過去を塗りつぶすというよりは、今までこういう歴史があったということを振り返って、じゃあどういう作り方を、どういう願いが生まれてたのかってことを、江戸時代とかもっとそれよりも前の時代、例えば神社で神様にあげるために日本酒を作るときにどういう思いだったのかっていうところまで丁寧に考えると、「過去に振り返る」を表して、YouTubeとかの再生マークから、逆の再生マークにできないかなっていうのが始まりでした。
中山 ああ、三角の逆再生マーク。
太田 過去に、もっと前に思いを馳せる、みたいな感じで。「逆再生」の意味もあって、クラフトの「く」でもある。
このパートのテーマでいうと、つまり先ほどの米袋のファッションへの転用であったり、クラフトサケもそうなんですけど、ホテルも高級でゴージャスなベッドがあるホテルだけが、ホテルの仕事なのかというとそうでもないし。お酒を通して何を伝えるべきなのか、ホテルでも体験を通して何を伝えるべきなのか、そのバッグを持つということで、自分が持っているバッグっていうのは一体どこでどういうストーリーでつくられたのか、一つ一つに込められる意味がそもそも東北って昔から多いんじゃないかなって。そんな感じしません?
中山 うん、そうですね、本当に。東北って残っているものがたくさんあるんですけど、それは時代に淘汰されてなくなってくるものも多い中、意味があるものだけは残ってるんですよ、ちゃんと。それはすごく感じています。無理やりみんなで何とか残そうとしなくても、ちゃんと残ってる。
太田 そうですよね。
中山 何年か前、僕のゼミ生が山形中の100年企業を調べてカタログ化するっていう、ちょっと見事な卒制を作ったりしてて、そのときに僕もその学生の活動を見ていて、延命措置状態というか、極端に元気がない状態の会社もいっぱいある一方で、すくすくと200年目指して伸びていってる会社もたくさんあって、そこの違いは何かなって話をしてると、「そもそもあったものを素直に持ち出しているだけ」っていう。
太田 シンプルなんですよね。
中山 そう、シンプルな作り変え。逆再生っていうのでちょっとピンと来たんですけど、変に新しくしないで来た所っていうのは、うまく乗りこなしてきてるなって。