VALUE SIGHT

東北VALUE SIGHT 宮城

オランダ式の施設園芸で「稼げる農業」を実現

東日本大震災によって石巻の地は津波に襲われ、多くの住民が住まいや働く場所を失った。年々人口が減る中、地域の農業を元気にして活力を取り戻したいとの思いから、2014年、オランダ式の施設園芸を営む「デ・リーフデ北上」が設立された。農業先進国であるオランダの技術を自社で栽培しているトマトとパプリカに応用し、「稼げる農業」を実現している。

復興に向けた石巻への思いとオランダ式農業との出会い

東日本大震災以前は、農業資材販売の会社経営と並行して稲作を行っていた。しかし、震災による津波で石巻の自宅や職場はすべて流され、田んぼは塩害や地盤沈下により稲作を継続することができなくなった。裸一貫の状況で「これを機に何か新しいことはできないか 」、そんな思いの中、頭に浮かんだのがオランダ式の施設園芸だった。当時、石巻市はオランダと園芸協定を結んでおり、オランダに出向いて現地の農業を視察する機会があった。実際に目の当たりにするオランダの農業は研究が非常に進んでおり、ITを駆使した徹底的な効率化・機械化が行われていることに感銘を受けた。

新たなことを始めるにあたり最も意識していたのが、震災からの復興・地域活性化である。「石巻の農業を元気にし、雇用の創出・人口増加に貢献したい」、そのためには「稼げる農業」にシフトする必要性があると感じていた。オランダ式の農業にはまさにそのエッセンスが詰め込まれており、石巻でオランダ式の施設園芸を始めることを決意した。

多くの苦労が伴いながらも、試行錯誤を繰り返し、2014年4月、株式会社デ・リーフデ北上を設立。国の補助金や農林中央金庫による出資を受け、園芸施設整備に着工し、2016年秋よりトマトとパプリカの栽培を開始した。

デ・リーフデ北上 上空写真
栽培しているトマト

デ・リーフデ北上の農業の特徴

デ・リーフデ北上の農業には大きく分けて三つの特徴がある。一つ目は、ITを活用した環境制御システムによる大量生産・安定供給を実現した点である。

当社では、パプリカとトマトの生産を行っている。それらすべてがITで管理された独自ハウスの中で栽培されている。当社の「フェンロー型ガラス温室」は軒高5.7メートルと一般的なハウスの2倍以上の高さがある。その高さを生かした栽培方法により、自社で生産しているトマトとパプリカは、一つの苗木から通常の何倍もの収穫が可能となる。また、各ハウス内には日射量、風量、室温を感知するセンサーが搭載されており、常に栽培に適した環境を維持している。それらの管理もすべてオランダ由来の環境制御装置によって行われており、生産性の向上につながっている。

フェンロ―型ガラス温室

システムによって管理・計算された栽培方法であるため、先々の収穫量を見通すことができ、安定供給につながることも利点である。規模の小さい個人農家では、その年の気候や災害状況によって収穫量にばらつきが出るため、販路は直売所や農協などに限られる。一方で、当社では大量ロットを安定的に供給する生産体制を作り上げたことで、商社やスーパーとの契約取引が可能となり、初年度から好調に収益をあげている。

特徴の二つ目は、化石燃料削減をはじめとする環境に配慮した生産体制である。オランダ式農業には自然資源を有効活用するという理念が根付いており、自社でもその考えを取り入れた生産設備の導入を実施している。例えば、ハウスの屋根に降った雨水を貯蔵する「雨水槽」や地域の森林組合から供給を受けた木質チップを燃料とした「木質バイオマスボイラー」がその一例である。雨水や地域資源の活用によってコストを最小限に抑える一方、燃料供給の効率化を図ることで、初年度と比較して“収穫量1.3倍・化石燃料3割削減”を実現した。

三つ目の特徴は、従業員が働きやすい環境づくりに力を入れている点である。労務管理システムを活用することで、作業者・作業内容・作業場所などの労務情報を集計し、栽培計画に反映させることができる。作業時間や個々人の業務量を可視化することで、適正な人員配置、効率的な作業分業を行っている。一般的な農家では、それぞれの役割や作業内容は慣習的に割り振られ、全体的な労務状況の把握が曖昧になっているケースもある。当社ではシステムによる明確な労務管理をすることで、業務量の偏りを解消し、従業員が休みを取りやすい環境を整えている。このように従業員にとって働きやすい職場づくりをすることで、地域人材の雇用にもつなげていきたいと考えている。

「リーフデ・テラス」と「オランダ×日本」式農業に向けた挑戦

パプリカとトマトの栽培を開始してから6年目に入り、年々収益は増加し、規模も拡大している。今後はより一層自社のブランドを知ってもらい、地域の農業を元気にする取り組みを行っていきたい。

その先駆けとして、直売所とカフェが併設された「リーフデ・テラス」を2021年秋にオープンした。数年前から“廃棄ゼロ”を目標に掲げ、商品にならない収穫物の有効活用を模索する中でこのテラス開設が実現した。テラス内の直売所では、自社で収穫したトマトとパプリカに加え、地域の農家が収穫した農産物を販売している。カフェでは、トマトとパプリカを使用したピザやパスタ、カレーを提供している。もともと近隣地域には食事ができる飲食店などがほとんどなく、地元の食材もなかなか食べてもらえないという課題があった。このリーフデ・テラスが、地域住民が集い、地元の食材を味わえる憩いの場となることを期待したい。

リーフデ・テラス直売所

また、今後は岩手県の沿岸部でさらに二つの農場を設立する予定である。これらすべて合わせると日本一の規模を誇る農場となる。オランダ式の農業に改良を加え、より日本の環境に適した「オランダ×日本」融合型の農業を確立していくことが今後の目標である。昨今の日本では「農業は稼げない」というイメージがあり、大卒の農業従事率は全体のわずか1割にも満たない。このようなマイナスイメージを払拭し、「稼げる農業」をアピールしていくことで若者の農業就業率の増加、そして地域の活性化に貢献していきたい。

この記事を書いた人

株式会社 デ・リーフデ北上

代表取締役鈴木 嘉悦郎

宮城県石巻市北上町橋浦北釜谷崎226
TEL:0225-67-2046
FAX:0225-25-7047
URL:http://de-liefde.co.jp/

宮城県石巻市出身。地元の農業高校卒業後、実家の農業を継ぐ。20代で農業資材を販売する「有限会社 鈴木産業」を創業。2011年、東日本大震災の被害にあったことをきっかけにオランダ式農業に着手し、2014年「株式会社 デ・リーフデ北上 」を設立。

おすすめの記事