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東日本大震災から10年、世界的な災害のコロナ禍、そして次の10年に向けて

※この記事はFuture SIGHT No.93からの再掲です。

女川みらい創造株式会社は2014(平成26)年に設立されたまちづくり会社である。震災復興のみにとどまらない、民間主導、若者主導で変化に対応できる持続可能な街づくりを目指し活動している。現在は、“海がみえる公園のまち” がコンセプトでまちづくりの顔でもあるテナント型商業施設「シーパルピア女川」や海のまち女川の鮮魚や加工品が楽しめる「地元市場ハマテラス」の運営管理の他、それらを一体として重点道の駅に選定された「道の駅おながわ」の事務局業務等を担っている。

女川みらい創造株式会社設立の経緯

2011(平成23)年3 月11 日の東日本大震災による大津波で宮城県女川町は壊滅的な被害を受けた。人口約1 万人の町に、最大14.8 メートルの津波が押し寄せ、住宅4,411 棟が全・半壊。死者・行方不明者数は827人に及んだ。

未曽有の災害であったが、女川の人々はすぐさま町の復興に向けて動き、約1 カ月後には民間事業者らによる「女川町復興連絡協議会(FRK)」が設立された。その総会でFRK 会長に就任した髙橋正典商工会長(当時)が「復興には10 年も20 年もかかる。だから、未来に対して責任を負える若い世代がまちづくりを進めるべきであり、年配者はサポートに徹するべきだ。だから還暦以上は口を出さず、責任世代に委ねる」と挨拶をし、その言葉のとおり、その後先輩方は若手に主要な決定権を与え、決定する場に参加できる土壌も作った。

翌年FRK は独自の復興計画を女川町に提出。その中には、新たな商業エリアの再生には土地の所有と利用を分離した公設民営でのモールの建設が必要との再生案が盛り込まれた。2012(平成24)年以降FRK のメンバーはオフィシャルな協議会の場にて、これまで議論してきたことの具体化に向けて動き出した。

震災後、女川は行政主導から民間主導へ大きく舵を切った。民間主導行政参加型の公民連携がこの10 年間の女川を動かしてきた枠組みだ。

公民連携による中心市街地の復興まちづくりは、岩手県紫波町の「オガールプロジェクト」を参考にした。そのプロセスや枠組みを、女川駅前の商業エリアの建設、管理・運営に応用しようと考え、何度も現地を訪れ、行政・民間問わず関わるプレーヤー全員が同じものを見て、同じことを学んだ。

こうした経緯を経て、駅前から続く商店街に出店予定の事業者らにより、2013(平成25)年6 月に「女川町中心市街地商業エリア復興協議会」が設置された。被災した事業者の再建方法を技術的に検討していく中で、単に被災事業者が商業店舗を再建するだけでは持続可能性は低くなるので、新しい血をどんどん入れ、変化できる仕組みが必要だと考えた。それには公設民営ではなくリスクを負った民間が責任をもってテナントリーシングを行うべきという結論となり、第三セクターのまちづくり会社「女川みらい創造株式会社」が設立された。町有地の上に、民間企業である「女川みらい創造株式会社」が施設を建て、所有する店舗群をテナント方式で運営し、そこで上がった収益を基に駅前商業エリアのマネジメントをする仕組みとなった。

資本金は1,000 万円。出資構成は、女川町が24%、女川町商工会が26%、女川魚市場買受人協同組合が20%、(一社)女川町観光協会が20%、復幸まちづくり女川合同会社が10%となっている。行政の役割は民間の下支えという町長の方針で、町の出資比率を抑えた構成となった。

レンガみちの先に見える海

エリアマネジメント

2015(平成27)年12 月、レンガみち沿いにシーパルピア女川(開業当時26 店舗・現在29 店舗)がオープンし、翌年12 月には水産関連業者が入店した地元市場ハマテラス(開業当時8 店舗・現在7 店舗)がオープンした。駅前から海へと続く歩行者専用道路であり広場的な役割も担うレンガみちでは毎月のようにさまざまなイベントが開かれ、仙台圏を中心に広くは北関東からも被災地視察ではなく観光に訪れてくれるようになった。

開業当初は被災事業者の割合が多かったが、現在は震災後に創業、起業した事業者の割合が多くなっている。変化しやすい仕組みを取り入れた結果だ。2019 年までは観光客数は右肩上がりに伸び、周辺地価も微々たる額だが上昇し続けた。駅前商業エリアのマネジメントは、女川町、女川町商工会、女川町観光協会、NPO アスヘノキボウ、ホテル・エルファロ、ゆぽっぽコンソーシアム、復幸まちづくり女川合同会社で組織する「女川レンガみち協議会」が情報の共有や調整を行い、女川みらい創造はその事務局を担っている。

道の駅「おながわ」重点道の駅登録へ

しかし、世界的な災害であるコロナ禍に襲われ、商業エリア開業後に行ってきた集客策は密になるため行えなくなり、飲食店を中心に現在も厳しい状況が続いている。席数を減らさざるをえなくなった分をレンガみちに椅子とテーブルを設置しカバーする取り組みも行ってきた。また、コロナ対応には、震災復興と同じぐらいの年数がかかることを共有すべきだと2020 年6月、第二期女川町復興連絡協議会も立ち上がった。コロナ前までの取り組みをいったんすべてリセットして、コロナ禍に対応した施策について若手を中心に議論し、実践できるものは実践した。1 年間議論してきたものを2021 年に独自の提言書として取りまとめ、町に提出した。

2021 年4 月、レンガみち沿いにあるシーパルピア女川、地元市場ハマテラス、女川町まちなか交流館、女川町たびの情報館ぷらっとの4 施設をもって重点道の駅登録を受けた。既存施設を活用した道の駅は全国でもあまり例がない。3 年越しで実現した道の駅化は、コロナ禍で積極的な誘客策が打てない中、各種メディアで取り上げられ、コロナ前までには届かないまでも客数は戻り始めてきた。今後は周辺の道の駅を結んだ観光ルートの構築も考えている。次の10 年に向けての歩みはまだ始まったばかりだ。

コロナ対策でレンガみちに椅子を設置

この記事を書いた人

女川みらい創造株式会社

代表取締役社長阿部 喜英

女川みらい創造株式会社
宮城県牡鹿郡女川町女川2 丁目60 番地
TEL 0225-24-8118 FAX 0225-24-8228

1968 年、宮城県女川町生まれ。
有限会社梅丸新聞店 代表取締役。2020 年、女川みらい創造株式会社 代表取締役社長に就任。
復幸まちづくり女川合同会社 代表社員。第二期女川町復興連絡協議会 会長。女川町観光協会 顧問。女川町商工会 副会長。

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