VALUE SIGHT

東北VALUE SIGHT 秋田

伴走型で地域の事業者・起業家をサポート
~すべてのチャレンジを応援~

※この記事はFuture SIGHT No.93からの再掲です。

秋田県湯沢市にあるビジネス支援センター「ゆざわ-Biz」は、2020年1月に開設された市直営の中小企業支援拠点である。「何度でも・無料で・経営に関わることならどんなことでも」相談できるのが特徴で、開設間もないながら昨年度の相談件数は約1,000件に上る。 センター長を務める藤田敬太氏は、自らの役割を「1件でも多くの事業者の売り上げを伸ばすこと、事業者支援を通じて地域経済を活性化させること」であるとし、相談者一人一人に寄り添い、事業者の課題解決や新たな一歩に向けた取り組みを支援している。

湯沢市が導入した中小企業支援「ビズモデル」とは?

古くは「東北の玄関口」として栄えた秋田県湯沢市は、近年は若年層を中心に人口減少が著しく、慢性的な事業承継者不足もあって、ここ数十年で廃業を選択した店舗も多い。湯沢市ではこうした人口減少に伴う産業衰退に歯止めをかけるため、市の予算による中小企業支援事業として、2020 年1 月に公設の経営相談窓口である湯沢市ビジネス支援センター(ゆざわ-Biz)を開設した。

湯沢市が導入したこの経営支援モデルは、静岡県富士市を発祥としており、全国的に「ビズモデル」と呼ばれている。市の予算で運営しており、事業者は何度相談に訪れても無料。現在では山形市など比較的人口規模の大きな自治体から、人口約1万人の島根県邑おおなん南町ちょうまで、全国で25 の自治体で独自に予算を組んで導入している人気の中小企業支援のモデルである。

事業者に寄り添う伴走型支援を行いながら、「お金をかけずに、知恵とアイディアで事業者の売り上げをアップする」をモットーに、事業者が持つ「強み」や「オンリーワン」を見つけ出し、それを磨き上げることによって売り上げをアップさせる。大々的な広告や、新たな設備投資といった「お金のかかる」ことではなく、事業者のこれまでの技術やノウハウを生かした新商品や新サービスの提案を行う。「ヒト・モノ・カネ」のない中小企業にとって、ゆざわ-Biz は、気軽に使える「経営戦略室」ともいえる存在である。

ゆざわ-Bizでの相談風景。毎日多くの事業者が訪れる

縁もゆかりもなかった湯沢市に来たきっかけ

東京都出身の私にとって、これまでの人生で湯沢市はおろか秋田県とも接点はなかった。大学卒業後は読売新聞東京本社に入社。東京などで約10 年間記者として活動し、取材と原稿の執筆にいそしんだ。30 歳を過ぎたころ、新たな分野に挑戦したいという想いから新聞社を退職。半導体の専門商社で、新規事業開発担当の役員に転じた。その後、事業会社の代表を務めたのち、静岡県に本社を置くゼネコンのベトナム現地法人の立ち上げを担った。勤務地のベトナムでは、現地法人の代表と兼務する形で、現地資本の金融機関にも参画し、外資系金融機関との提携の戦略を練るなど、少し変わった職歴を有す。

40歳を超えたころ、私のキャリアを通じて培った多様な経験を「世の中のためになんとか使えないか」と漠然と考えるようになり、企業を「経営する側」から「支援する側」に回りたいという目標を持つようになった。そのころに全国的に自治体が相次いで採用していた「ビズモデル」の存在を知り、当時ちょうど湯沢市でセンター長の公募をしていたこともあり早速応募をしたところ、選考を経て2019 年10 月から現職に就くこととなった。

想定をはるかに超える反響

センター長として着任したゆざわ-Biz での至上命題は、1 件でも多くの事業者の売り上げを伸ばすことで、地元経済の活性化につなげることだ。開設以降、相談件数は多い時で月100 件にもなり、2020 年度の相談件数は約1,000 件に上った。相談に来る事業者は、「もっと集客をしたい」という飲食店などのサービス業から、製造業、農家や直売所など幅広く、起業相談に訪れる人も多い。着任前は人口約4万人のこの街で「どれぐらいの事業者が相談に来るのだろうか」とも思っていたが、ふたを開けてみるとその件数は、全国的にも人口10 万人規模の自治体にあるビズにも引けをとらない数字となっている。

相談では、事業者が当たり前だと思っていたり、「弱み」だと感じている部分を、知恵とアイディアで強みに変えることで、売り上げのアップを試みる。例えば、湯沢市の創業約40 年の老舗レストラン「びいどろ」では、事業承継した2 代目が、店の奥の古い小上がりのお座敷を「弱み」と感じていた。そこで、ゆざわ-Biz ではお座敷を活用した「キッズスペース」を提案。お座敷は小さい子どもたちのいる親にとっては遊ばせておくには何かと使い勝手がいいからだ。お座敷にプレイマットや絵本、ボールなど簡単な遊具を置き、調乳ポットや離乳食をあたためる電子レンジを置いたところ予想は的中し、周辺に家族で長居できる店もなかったことも相まって、土日は家族連れに人気のレストランとなった。

古いお座敷をキッズスペースに利用したレストラン「びいどろ」

コロナ禍での中小企業支援のあり方

開設直後から相談件数が増えたのには、新型コロナウイルスによる影響も大きい。ゆざわ-Biz では、事業者に対して売り上げを回復させる施策はもちろん、「ピンチはチャンス」ともとらえ、コロナ禍で変化した消費者のニーズに応じた商品やサービスを提案した。

アパレル向けのプリントを行う事業者は、その技術を生かし、テレワークや遠隔会議が流行し始めた際、自分の背景を隠す自宅向けの「遠隔会議用のポータブル背景幕」をリリース。マスクが人々の生活にとって必需品となった今、板金加工会社は、飲食店向けに来店する客のマスクをかけておける「マスクスタンド」を新商品として売り出した。

また、婚礼プロデュース会社は、大人数が集まる宴会需要が蒸発すると分かると、いち早く「小人数の挙式」というサービスを構成し、遠くにいても挙式に参加できるオンライン配信サービスも開始した。こうした新商品やサービスは、2020 年4 月ごろというコロナ禍の初期段階で市場に投入した。中小企業は大企業に比べて意思決定のスピードが早く、このスピード感を生かした支援となった。

雇用を生み出す「究極の地方創生」

「ビズモデル」は中小企業支援の一つの手段だが、他方で「究極の地方創生」とも言われている。中小事業者の売り上げをアップさせることで、新しい雇用を生み出すことになり、街の活性化につなげることができるからだ。大企業がいない地方においては、1社が100 人の新しい雇用を生み出すことはなかなかできない。しかし、小さい事業者の売り上げを上げることで、それぞれが1人の新たな雇用を生み出し、それが100事業者集まれば結果的に100 人の雇用を生み出すことができる。ゆざわ-Biz では、今後も街の活性化につながるような中小事業者への伴走型の経営支援を続けていきたいと思っている。

この記事を書いた人

湯沢市ビジネス支援センター ゆざわ-Biz

センター長藤田 敬太

湯沢市ビジネス支援センター ゆざわ-Biz
秋田県湯沢市大町二丁目1-60
TEL・FAX 0183-56-7117

1978 年、東京都出身。
大学卒業後、読売新聞社で約10 年取材記者職として活動。その後、中小企業の役員や代表を歴任し、ベトナムで地方ゼネコンの新規事業立ち上げを行った。同国では現地金融機関に参画し、外資金融機関の誘致戦略の策定にも携わった。2019 年10 月から現職。

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