- この記事の企画
- 新規事業や新商品の開発、組織改革など企業経営におけるイノベーションは多岐にわたります。自社のさらなる発展を目指し、新たな価値開発に取り組む山形の企業を紹介します。
※この記事はFuture SIGHT No.93からの再掲です。
酒田市両羽町に本社を構え、建設資材の販売などを手掛ける株式会社 茜谷。創業から100 年を超える老舗企業である同社は2015(平成27)年、地震による液状化現象を抑制する新技術「ジオダブルサンド工法(以下、GDS 工法)」で特許を取得した。現在、この工法は東北から関東、北海道の道路や大規模駐車場の建設に用いられている。GDS 工法の開発から現在までの取り組みについて、代表取締役の茜谷聡氏にお話をうかがった。
世のため、人のために取り組むチャレンジ
1882(明治15)年、茜谷商店の創業が同社の始まりである。石炭販売からのスタートを経て、木材事業や金物事業にも着手。1953 年(昭和28)年に金物事業が独立し、現在の茜谷の前身となる株式会社 茜谷金物部が設立された。その後、同社はトタンの成形販売などによって事業を拡大し、2000(平成12 )年に4代目社長として茜谷氏が就任した。「初代(創業者・茜谷五市郎氏)は、地元の人々の暮らしを少しでも豊かにしたいと事業を始めた」と語る茜谷社長が重んじているのが「世のため、人のためになることを成す」。創業当時からの想いは現在へと着実に引き継がれている。
茜谷社長が同様に大切にしているのが「新しいことへのチャレンジ」。「今までこの世になかった新しい技術を生み出したいんです。何より大事なのは、現場から得られる発想」という。その言葉は実現しており、同社は、工場や店舗に使われる金属屋根に特殊な補強金具で雨あま樋どいを取り付けることで雪や強風に対する強度を向上させる「SA 工法」を新規に開発、2008(平成20 )年には特許を取得している。
建物の倒壊を防ぐ新工法
同社が取得している特許技術がもう一つある。それが、従来とは異なり自然エネルギーを「逃がす」という発想から生まれ、軟弱地盤や液状化現象への対策となるGDS 工法である。この工法は、2 種類のシート(補強シート、防水シート)と透水管で構成される。道路などの表層(アスファルト層)の下部にある下層路盤を補強シートと防水シートで挟み、その下に水が染みとおる材質の透水管を設置する。地震の発生時、水圧によって湧き上がった地下水を防水シートで遮り、その水を透水管の中へと染み込ませ、排水する。地表付近の砂と地下水を分離することで、砂が地上に噴き上がる液状化現象を抑制するのである。
GDS 工法を開発するきっかけとなったのは、2011(平成23)年の東日本大震災。震災当時、千葉県浦安市をはじめ各地で液状化が発生し、建物や道路への被害が多数報告された。「地震による建物崩壊の主な原因として「液状化」と「建物の共振」が挙げられます。GDS 工法は液状化と同時に建物の共振を抑制するのにも効果がある。地中深くまで掘る必要がない当工法は、地面の奥まで杭を打ち込む従来の工法と比べて揺れの影響を小さく抑えられるんです」。
震度6 強マグニチュード9 の地震を想定した実証実験(計6 回)では、無対策の場合、1 回目でアスファルトにひび割れが入り液状化が発生した。一方、GDS 工法による対策を施した路面では最後までアスファルトの破断は発生しなかったという結果が出ており、その効果が立証されている。
「一石五鳥」複数のアドバンテージ
GDS 工法の施工には、耐震液状化対策の他にもさまざまなメリットがある。まずは、従来工法と比べて低コストであること。イニシャルコストは標準価格で1 平方メートルあたり約7,500 円、ポリプロピレン製のシートは土中に埋められるので、紫外線の影響による劣化もなくランニングコストはほとんどかからない。そして、工事の際に大型重機を使用しないため、工期の大幅な短縮も可能。その上、廃油や産業廃棄物も出ないので環境にもやさしいという。
加えて、シートを面状に広げるやり方は、不同沈下(軟弱地盤などが原因で地盤が不均等に沈みこむ現象)や凍上災(冬期の低温によって路面等に大きな霜柱が発生する災害)の防止になり、アスファルトの長寿命化にもつながっている。各地で行っている施工後の事後検証から、1 年以上経過してもアスファルトにはひび割れやへこみなどもなく、表面がきれいな状態が維持できていることを確認している。一石二鳥にとどまらず「一石五鳥」を叶えるという点においても画期的な工法であるといえるだろう。
工法のさらなる普及を目指して
同社は2021 年、経済産業省所管機関である独立行政法人 工業所有権情報・研修館(INPIT)の重点支援の対象に採択された。建設業での重点支援の採択は県内では初の事例であり、特許を活用するための体制づくりや市場におけるポジショニング、営業戦略の策定など、事業展開の面でサポートを受けながら販売エリアを拡大し、施工数を増やしていく上での課題を探っていく。同社はこれまでも全国の施工業者による研究会などを通じてGDS 工法のPRに努めてきたが、今回の採択を追い風に普及を加速させていく。
「常に目指しているのは人々の笑顔を作りだすこと。より多くの人が笑顔になれるように、そのためにわれわれはいるんです」迷いなく言い切る茜谷社長の言葉からは、これからも世のため人のため、新たな挑戦を続けていくという強い信念が感じられた。
株式会社 茜谷
代表取締役 茜谷 聡
所在地:山形県酒田市両羽町3-1
設立:1953(昭和28)年10 月
事業内容:鋼材・建設用資材販売、建設工事
社員数:10名
TEL:0234-26-1811 FAX : 0234-26-1815
URL : http://www.akaneya-sa.jp/
この記事を書いた人
株式会社フィデア情報総研
カスタマーソリューション事業部手塚 綾子
株式会社フィデア情報総研 山形支社
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