経営

To the Future! わが社の挑戦

第4回~ 確かな品質を誇りに、受け継がれてきた味噌とこうじを守り続ける 〈合資会社羽場こうじ店(秋田県横手市)〉

秋田県横手市増田にある羽場(はば)こうじ店は、1918年の創業から100年以上にわたって、変わらない製法でこうじと味噌を作り続けている。長く地元で愛され続け、近年では全国にファンを持つこうじ店の未来への挑戦について、工場長の鈴木雅秀氏にお話を伺った。

工場長 鈴木雅秀氏(写真中央)

羽場こうじ店への思い

鈴木工場長にとって、羽場こうじ店は妻の実家の家業にあたる。同社に入社する以前は全く畑違いの営業一筋で、昼夜を問わずに働き成績も好調だった。楽しくはあったが、次第に物をいくら売っても満足できないと感じるようになったという。自分が望む仕事をしたい、羽場こうじ店の味噌をなくしたくない、当時体調が思わしくなかった妻に健康になってもらいたい、という思いで、新築の家を手放して福島県から秋田県へ移住し、同社へ入社した。妻の賛成を得る前の決断で、「すべては自分のチャレンジ」と笑顔で語る。

味の継承が第一

今、第一に考えていることは、味の継承だ。現社長が今まで作り続けてきたものと同じように、質の良いこうじを作り続けること。「10年以上ここで社長と一緒にこうじを作っているけれども、やっぱり社長にはかなわないところがある」という。同じ工程で同じように作っても、こうじ菌という生き物を扱っているため、難しい面が少なくないそうだ。

また、同社の味噌は天然醸造で、自然の力を利用して発酵させている。発酵を止める処理もしていないため、おいしくて健康的だと胸を張って言える味噌だが、それゆえに製造する年の気温の変化で色や味がわずかに変わるという。これも天然ゆえの難しさだが、それでも味を変えずに作り続けることにこだわりを持つ。「味が変わってしまったら元も子もない。まずは味の継承をしていかなければならない」と語るのは、この味に絶対的な自信を持っているためだ。

こうじを作る鈴木工場長

現在は発酵食品が注目を浴びており、こうじの認知度も上がっているが、鈴木工場長が入社した当時は、こうじは一般に全く知られておらず、「こうじと言えば土木工事のイメージが大半」だった。その状況が変わったのは2011年ごろ、塩こうじがマスメディアに取り上げられたことがきっかけで、突如としてブームになった。以前はこうじ店がメディアに出るなど考えもしなかったことだったそうだが、同社にもテレビや雑誌の取材が毎週のように来るようになった。メディアをきっかけに新しい顧客が増え、全国各地から引き合いがあるようになったが、鈴木工場長が重視しているのはそのことではない。「全国的にこうじが注目されて、その中でも選ばれる間違いない味がうちにはある。その強みが一番大事」と語る。

こうじ作りの様子

社員が働きやすい職場に

味を継承するために、社内体制の整備にも力を入れている。社員の働きやすさの向上と社員教育だ。以前は家族経営の色が濃く、休日も統一されていなかったものを、年間の予定を立ててシフトを組み、確実に休みが取れるようにし、長時間勤務や残業もなくすようにした。それは働きやすさだけではなく、同じ内容の仕事をより短時間でするための工夫を従業員自らが考えることにもつながる。一から十まで指示することはせず、ときには失敗も許容して、考えさせてやらせてみる。すると、その人の個性や光るものが見えてくるという。

また、新しい社員の採用も進めたいと考えている。働き手が不足していることもあるが、若手社員を育成するためでもある。さまざまな知識を得た若手社員を指導的な立場にすることで、働きがいを持ってもらいたいとの思いからだ。「働く人たちが、ここはいい職場だから頑張ろう、と思える状況になって初めて、自分たちのこうじ作りや味噌づくりがスタートラインに立てる」と話す。

はやりに乗らず、まっとうな固い仕事を

塩こうじがブームになったとき、全国の百貨店から問い合わせが相次ぎ、フル稼働で生産して毎日何万個も出荷していたが、その忙しさは2週間で落ち着いたそうだ。「はやりは廃る」と実感を込める。

流行を全く気にしないということではない。新しい情報は常にチェックし、メディアの取材にも対応する。これから行うべきことや、やってみたいことの構想は数多くストックしている。しかし、中心に据えているのは「固い仕事」だ。作り手の満足で終わることなく、品質の良いおいしいものを消費者に届けること。会社の規模拡大よりも、この営業スタイルを守ることに重きを置く。「社員がそれほど多くなくてもやれる、幸せな生活を保てるぐらいがちょうどいい」と語る。

今はこうじそのものを買い求める人も少なくないが、元々のこうじの役割は豆や米と合わせて発酵させる原材料だ。「うちはこうじ屋だから、こうじらしく仕掛け人のように、派手なことはやりすぎず、まっとうな固い仕事をしていく。」同社の確かな品質のこうじや味噌を守り抜いていきたいという強い信念が感じられた。目新しいことに飛びつくことだけではなく、今まで受け継がれてきたものを絶やさず守り抜くことも、未来へつながる挑戦と言えるのだろう。

羽場こうじ店のこうじ

合資会社羽場こうじ店
代表 佐々木 喜一
所在地:秋田県横手市増田町三又羽場72
設  立:1918年
業  種:食品製造業
従業員数:11名

この記事を書いた人

株式会社フィデア情報総研 

地域政策コンサルティング部菊池 郁

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