経営

To the Future! わが社の挑戦

第3回~いい暮らしを消費者に届け続けるために〈株式会社ナイス(秋田県秋田市)〉

※この記事はFuture SIGHT No.93からの再掲です。

株式会社ナイスは、秋田県内でスーパーマーケット事業を展開している。2021年4月には秋田駅前に新店舗をオープンし、店舗数は現在11 店舗と、秋田県の消費者にとって身近なスーパーマーケットだ。「良い商品を、より安く、良いサービスでお客さまに提供する」を基本精神として掲げている。私たちの生活のすぐそばにあるスーパーマーケットの未来への挑戦について、代表取締役の齋藤寛之氏にお話を伺った。

代表取締役 齋藤 寛之 氏

若い世代へのアプローチ

一般になじみ深いスーパーマーケットといえば実店舗型だが、ナイスは宅配にも力を入れている。2016年にネットスーパーをオープンし、生鮮食品をはじめとする商品を会員の自宅や職場へ毎日配達している。外出が難しい高齢者の利用が多いのではないかと想定されたが、子育て中の方や仕事が忙しい方など、さまざまな方が利用している。

そこでナイスは、若い世代の利用をさらに広めるため、スマホアプリとパソコンからネットスーパーの注文ができるようにシステムを改修した。新規会員は電話やファクスでの注文ができないため、スマホを使い慣れない高齢者にとって利用が難しくなることも考えられたが、若い世代の会員を増やすことを重要視した。若い会員を獲得することは会員の裾野を広げることにつながり、一度会員になった方がそのまま使い続けてもらえれば、継続的な会員を確保することにもなる。システム改修には投資が必要だったが、これを齋藤社長は「5 年後、10 年後に花開かせるための種まき」と表現する。

株式会社ナイス ホームページより

他業種からの学び

「種まき」が必要と考えるのは、齋藤社長の社外での経験が大きい。齋藤社長は一度ナイスを離れ、大手生命保険会社で6 年ほど勤務し、管理職も経験した後、先代社長である父の求めで同社へ戻った経歴がある。保険の契約は今すぐ利益を得るものではなく、将来の実りを刈り取るための種まきであると学び取った。後に大きな利益を得るため、今のうちに投資をするという考え方は、小売業にも当てはまるものである。

パン・お惣菜コーナー

もう一つ、保険会社勤務での学びで大きかったものは、利益と付加価値についての考え方だ。保険は仕入れがないところから保険商品という価値を作り出すため利益率が高い。一方、小売業は既にある商品を仕入れて販売するので利益率が低い。そのうえ低価格で競争しようとすると、さらに利益が少なくなってしまい会社運営の支障となる。それならば、小売業も右から左へ品物を流すだけではなく、販売する商品に付加価値をつけなければならない。それはスーパーマーケットの店舗では、肉や野菜といった食材を使うメニューを提案したり、おいしくて手軽に食べられる惣そうざい菜を提供したりということになる。

価格に厳しい目を向ける消費者のニーズを把握しながらも、価格だけの勝負にはしない。「王道は、きちんとしたものをきちんと売ること」という齋藤社長の言葉が明快に表している。

先代社長との約束

株式会社ナイスは、先代社長が1963年に秋田県大仙市西仙北で創業した。ルーツをさかのぼると、先代社長の父がリヤカーで魚屋を始めたことがそもそもの始まりだという。

先代社長は、受け継いだ魚屋をスーパーマーケット事業として拡大し、売り上げを承継時に比べて15 倍にも伸ばした。先代社長が亡くなるとき、齋藤社長にも自分のように事業を大きくしてほしいと求め、それを齋藤社長は父との最後の約束として心にとめているという。だが、2020 年度の当社の年商は185 億円となっており、この売り上げを何倍にも拡大することは並大抵のことではない。

店舗拡大を見据えた企業努力の一つが、生鮮食品の仕入れや加工、配送を一括して行うプロセスセンターの開設だ。

株式会社ナイス 本部

生鮮食品と一口にいっても種類はさまざまだが、例えば刺身でいえば、商品として店頭に並べるまでに、鮮魚を仕入れ、さばいて刺身に加工し、パックに包装する、という工程がある。それらの工程をこれまでは各店舗で行っていたが、センターの開設により一括で行うことができるようになった。これによって各店舗の負担が軽減されるほか、安定した品質の商品を各店舗に供給できるようになっている。

また、プロセスセンターを秋田市内の高速道路インターチェンジ近くに開設したことにもねらいがある。秋田県の中央部から高速道路を使って、県北・県南・日本海側へと、県内各所へスムーズに配送できることだ。このプロセスセンターは東北地方でみても大規模なもので、店舗数が現在の11 店舗から拡大しても十分に供給が可能な規模である。

生鮮食品売場

消費者に届け続けるために

齋藤社長が全国各地のスーパーを見る中で感じたことを語ってくれた。「このスーパーがあると近隣の人たちは幸せだよね、と思うお店が結構ある。そういうふうに思われるお店を作っていきたい。」事業拡大は自社利益の追求ではなく「良い商品を、より安く、良いサービスでお客さまに提供する」ためのものだということがよく分かる言葉ではないだろうか。

「いい暮らし、届けたい。」がナイスのキャッチフレーズだ。消費者に良い暮らしを届け続けるために、事業が次の世代に受け継がれるよう、将来を見据えて今から種まきをし続ける、それが未来への挑戦であると感じられた。


株式会社ナイス
代表取締役 齋藤 寛之
所在地:秋田市御所野湯本六丁目2-40
設  立:1963年6月
業  種:総合小売業
従業員数:1,158名

この記事を書いた人

株式会社フィデア情報総研 

地域政策コンサルティング部菊池 郁

株式会社フィデア情報総研
秋田事業所
TEL:018-837-1727

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